巨額の暗号資産流出を巡り米朝間で主張が対立
世界有数の暗号資産交換業者バイナンスで発生した大規模な資産流出事件を受け、米国と北朝鮮の間で対立が表面化している。被害額は60億ドル以上、日本円で約9900億円に達するとされ、暗号資産業界でも極めて大きな事件となった。
バイナンスは2026年10月29日に被害状況を公表した。その後、米連邦捜査局(FBI)は10月31日、北朝鮮とつながりのあるサイバー攻撃組織が事件に関与したとの判断を明らかにした。
これに対し、北朝鮮は11月3日、金正恩総書記の妹で朝鮮労働党総務部長を務める金与正氏の談話を発表した。米国の説明には根拠がないとする立場を示し、今回の疑惑を巡る非難を受け入れない姿勢を鮮明にしている。
金与正氏が米国の非難に反論し政治的意図を指摘
金与正氏は国営の朝鮮中央通信を通じて発表した談話で、FBIによる北朝鮮への責任追及を強く批判した。米国が北朝鮮を国際的なサイバー犯罪の中心的存在として扱おうとしているとの認識を示している。
談話では、世界各地で起きる不正なデジタル資産取引やハッキング事件を北朝鮮に結び付ける米国の姿勢を問題視した。こうした説明によって国際社会の認識がゆがめられていると主張し、北朝鮮に対する政治的圧力の一環だと位置付けた。
さらに、米国の対応を敵対的なものと評価した上で、北朝鮮として問題への対応を見直す考えにも言及した。ただし、具体的にどのような措置を検討するのかについては明らかにしていない。
FBIが流出資産の追跡と資金洗浄への警戒を強化
米国の捜査当局は、今回の事件について北朝鮮の支援を受けた攻撃グループによる犯行との見方を維持している。盗み出された暗号資産が複数の取引経路を通じて移動し、資金洗浄に利用される動きを警戒している。
FBIは暗号資産交換業者や関連サービスを運営する企業に対し、問題の資産に関係する取引を停止するよう求めた。流出資産が別の資産に交換されたり、複数のウォレットへ移されたりすることへの対処が焦点となっている。
今回の事件では、巨額の暗号資産が移転した経緯だけでなく、その後の資金の流れも捜査対象となる。北朝鮮側が関与を否定する一方、米国側は金融サービス事業者との協力を通じて流出資産への対応を進めている。
首脳外交の再開を巡る動きにも新たな対立材料
今回の応酬は、米朝間で首脳外交の再開が取り沙汰される中で起きた。トランプ米大統領は金正恩総書記との再会談に関心を示しているものの、北朝鮮政府は外交協議の再開に関する提案へ公式な回答を出していない。
金与正氏は米国による今回の責任追及について、北朝鮮への敵視政策を示す行動だと批判している。サイバー犯罪を巡る問題が、両国の政治的な対立にも結び付いている状況だ。
一方、米国側が重視するのは暗号資産の不正取得と、その資金がどのように利用されるかという問題である。北朝鮮の関与を巡る見解の隔たりは大きく、捜査上の判断と外交上の主張が並行して示されている。
北朝鮮の関与を巡る認識の隔たりが改めて鮮明に
今回の事件を通じて、北朝鮮のサイバー活動に対する米国の警戒と、北朝鮮側の反発が改めて明確になった。FBIは特定の攻撃組織による犯行を指摘する一方、北朝鮮は自国への非難そのものを政治的な攻撃と捉えている。
被害規模が60億ドルを上回ることから、流出資産の追跡や関連取引の制限は暗号資産業界にとっても重要な問題となっている。米国の対応は金融取引の監視にも及んでおり、捜査当局と民間事業者の連携が求められている。
北朝鮮側は具体的な対抗措置を示しておらず、米朝首脳会談の再開についても公式な進展は発表されていない。巨額の資産流出を巡り、米国による責任追及と北朝鮮の否定が続く構図となっている。
