11カ国がIT人材を通じた資金獲得に警戒
日本、米国、韓国、英国、フランス、ドイツなど11カ国の関係機関は7月31日、北朝鮮のIT技術者による海外での活動について警戒を促す共同文書を公表した。対象となる技術者は、別の国の住民を装い、国外の企業から仕事を請け負って報酬を得ているとされる。各国は、こうした活動による収益が北朝鮮の核兵器やミサイル計画を支える財源になっていると指摘した。
文書をまとめた11カ国は、北朝鮮に対する国連制裁の実施状況を調べる多国間制裁監視チームの参加国である。共同で情報を発信することで、各国政府だけでなく、IT業務を外部に委託する企業にも注意を広げる狙いがある。国境を越えて行われるオンライン業務が、制裁を回避する手段として利用されているとの認識を示した形だ。
外国人を装い海外企業から業務を受注
共同文書によると、北朝鮮のIT人材は自身の所属や国籍を明らかにせず、他国の人物になり代わって仕事を獲得している。海外企業から開発などの案件を受注して収入を得るだけでなく、業務を通じて情報を持ち出す行為も確認されているという。企業が通常の採用や発注と考えて契約しても、相手の実態を把握できない場合がある。
オンライン上だけで進む業務では、作業者の所在地や実際の身元を把握しにくい。別人の氏名や個人情報が使われた場合、契約相手が北朝鮮と関係する人物かどうかを見抜くことは一段と困難になる。11カ国は、こうした手法が国境を越えた組織的な網として機能していると分析している。
企業に契約前の本人確認徹底を要請
共同文書は、行政機関や企業に対し、採用予定者や外部委託先の身元審査を強化するよう要請した。身分証の記載だけで判断せず、居住地や職歴などを多角的に確認する必要がある。北朝鮮関係者への支払いを防ぎ、制裁対象への資金流入を止めることが狙いだ。
北朝鮮のIT労働者と契約を結び、対価を支払った場合には、発注した側が法的な責任を問われる可能性もあるとされた。相手の素性を知らなかったケースでも、確認体制が十分だったかが問題となる。企業には情報管理だけでなく、取引先を適切に調査する対応も求められる。
得られた収入を兵器計画に利用と指摘
11カ国は、IT分野で獲得した資金が北朝鮮の核・ミサイル開発に回されていると説明した。通常の商取引を装った収益活動が兵器計画を下支えしているとの見方で、国際的な制裁の実効性に関わる問題と位置付けた。従来の輸出入や金融取引だけではなく、オンライン上の雇用や業務発注も監視の対象となる。
北朝鮮を巡っては、サイバー空間を通じた暗号資産の窃取も問題となっている。6月に開催された日米韓3カ国の作業部会では、日本円で900億円を超える暗号資産が北朝鮮によって奪われたとの被害が報告された。IT人材による収入獲得と不正な資産取得の双方に対し、関係国が対策を進めている。
国境を越えるIT契約への監視強化へ
北朝鮮外務省の報道官は8月4日、国営の朝鮮中央通信を通じ、11カ国の文書は北朝鮮の評価を傷つけるための政治的な主張だと反論した。さらに、米国などがサイバー分野を他国への圧力に使っていると批判し、今回の注意喚起を受け入れない姿勢を示した。
一方、11カ国は各国や企業に具体的な対応を求め、北朝鮮の資金獲得経路への監視を強めている。オンラインで働く人材の国籍や所在地を見分けにくい状況を踏まえ、契約前の確認と業務中の情報管理が重要となる。企業を経由した資金や情報の流出を防げるかが、国際的な制裁を機能させるうえでの課題となる。
