追徴額増加が示した年度結果の特徴
国税庁がまとめた2024年事務年度の所得税追徴額は 1431億円 に到達し、現行統計で最多の更新が3年続く結果となった。前年度比でも増加しており、調査の選別方法に大きな変化が生じたことが背景にあるとされています。同庁は申告内容を精査する過程にデジタル技術を導入し、従来は人手に頼っていた調査対象の絞り込みを高度化したと説明しています。調査件数自体は減っているものの、必要な部分に集中する仕組みが整い、追徴額の伸びにつながったといえます。
AIが支える申告漏れ判断の仕組み
所得税調査では2023年度から人工知能が本格活用され、申告履歴や調査データを統合して分析する体制が構築されました。AIは過去の傾向を踏まえて、申告に不整合が生じる可能性が高い納税者を抽出する役割を担い、調査対象の決定を支援しています。この仕組みにより、職員はリスクの高い事案に迅速に着手できるようになり、調査の効率性が飛躍的に向上しました。実地調査の件数は 4万6896件 と微減しましたが、調査の精度向上が追徴の増加をもたらしたとみられます。
高所得層の調査で明らかになった動向
今回の年度結果で注目されたのが、高額資産保有者を対象とする調査の動きです。富裕層に分類される層の申告漏れ所得は総額 837億円 と大幅に増加し、追徴額も 207億円 に達しました。国税庁は有価証券や不動産の大量保有、持続的な高所得などの基準を満たす納税者を特定し、調査を強化しています。金融資産の運用規模が大きい層では取引が複雑化する傾向があり、その実態を把握するための調査が拡大していることが数字に表れています。
無申告者の増加と複数の事案で判明した内容
無申告を理由とする追徴税額は 252億円 に達し、制度変更以降で最も高い数値となりました。特に個人取引に関連する申告漏れが目立ち、ゲーム機の転売やトレーディングカード販売といった副収入に関する無申告事案が報告されています。名古屋国税局では転売収益を申告していなかった納税者に対し、重加算税を含む約 2900万円 の課税処分が行われました。また大阪国税局では、顧客ごとに請求金額を示すメールが確認され、申告が行われていない収益が判明したことで 3300万円 の追徴処分に至っています。デジタル取引の増加とともに、個人の収益構造が多様化している状況が影響しているといえます。
調査手法の変化が示す税務運営の方向性
所得税調査全体では、訪問による調査と電話・面接による接触を合わせて 73万6336件 が実施されています。全体件数は低下する傾向にありますが、AIによる分析と判定により、調査対象の選定が合理化されたことで、重点的な調査が可能になっています。国税庁は今後もデータ活用を軸とした運営を進める姿勢を示しており、調査の高度化が続く見通しです。追徴額の推移からは、税務行政が効率性と精度を両立させる方向へ移行しつつあることがうかがえます。
