市場の先行きに影落とす政策リスクと経済不安
2025年1~3月期の米国株式市場は大きな波乱に見舞われた。S&P500種指数は最高値を記録した直後に調整局面へと突入し、四半期としては4.6%の下落を記録。これは2022年以来の大幅な下落率となった。背景には、トランプ政権が打ち出した保護主義的な通商政策への懸念や、インフレ再燃への不安がある。これにより、米経済が景気後退もしくはスタグフレーションへ向かうリスクが意識され、投資家心理は大きく揺らいでいる。
VIXの推移から見える投資家の心理状態
市場全体が弱気ムードに包まれる中、恐怖指数(VIX)は過去の類似局面と比較しても低水準にとどまっている。S&P500種指数が過去10回調整に入った際には、平均でVIXが37まで上昇していたが、今回の下落局面では30を下回ったままだ。市場では、この動きが「まだ全面的な売り(キャピチュレーション)には至っていない」ことを示唆しているとの見方が広がっている。専門家は、VIXが17付近で推移している現状を「機関投資家が完全には動揺していない証左」と分析している。
ハイテク大手の急落、指数に大きな影響
特に大きな打撃を受けたのは、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる主要ハイテク7社。アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、エヌビディア、メタ、テスラの株価は、いずれも四半期平均で16%下落した。S&P500指数ではこれらの企業の構成比が高いため、指数全体への影響は大きく、時価総額加重型指数は等ウエート型指数を3.5ポイント下回った。この差は過去16四半期で3番目の規模である。ただし、依然として全体の構成比は30.5%と高く、市場への影響力は継続している。
過去の統計が示す次期の回復可能性
S&P500指数は現在、3月13日に記録した安値付近で推移しているが、まだこの水準を終値ベースで割り込んではいない。専門家の間では「V字回復は期待しにくいが、今の下落は長期的な弱気相場ではなく一時的な調整に過ぎない」との見方が多い。実際に、1928年以降の統計では第1四半期に下落した場合でも、第2四半期は平均2.3%の上昇を記録しており、特に下落率が5%を超えた四半期の翌期では、平均上昇率が2.2%と回復傾向があることが確認されている。
景気後退リスクに備えつつ反発機会を見極める局面
市場の不安定さは続いているが、歴史的なパターンを踏まえれば、現在の調整局面は長期的な弱気相場の前兆とは言い切れない。とはいえ、政策不透明感と経済の先行き不安が重なる中で、投資家が今後の判断を下すには冷静な市場分析と過去データの照合が不可欠となっている。特にハイテク株の動向が引き続き市場全体に影響を与える構造は変わっておらず、米市場は依然として慎重な視線の中にある。