無菌室の作業解析でAIが動作を自動判定
武田薬品工業は、大阪市淀川区にある大阪工場で、製造現場の品質管理を高度化するための人工知能(AI)解析システムを公開した。AIは監視カメラ映像を分析し、作業員の動作を「適切」「速すぎる」「静止状態」などに分類。微粒子拡散の抑制や衛生管理の徹底を支援し、人的負担の軽減を図る。これまで熟練者が行っていた動作確認を自動化することで、作業効率と安全性の両立を実現した。
VR訓練で無菌環境を再現、教育効果向上へ
同工場では、AI活用に加え、仮想現実(VR)を用いた作業訓練を導入している。実際の無菌室を再現した仮想空間で、作業員は動作や手順を体験的に学ぶことができる。教育時間の短縮と習熟度の均一化が期待され、技能伝承の効率化につながる。こうしたデジタル技術の併用により、医薬品製造の現場における品質文化の維持が強化されている。
3Dプリンター活用で現場改善とコスト削減
製造現場では3Dプリンターを活用した改善も進む。試験管ラックなどの備品を自社で設計・出力し、既製品では対応できなかった細部の調整を実現。約2年半で1,000万円のコスト削減効果があったという。今後は追加導入を進め、設備保守や備品管理の最適化を目指す。
110年の節目、技術と人の継承を強調
大阪工場は1915年に創設され、当初はアスピリンを製造していた。現在は注射剤を中心に生産し、2023年度には血液製剤設備への新投資を発表している。11日に開かれた110周年記念イベントには従業員約500人が参加し、現地とオンラインを結んで開催された。山田章弘工場長は「大阪工場の発展を支えてきたのは設備だけでなく、人の努力と継承だ」と語った。
デジタル化推進が国内拠点全体に波及
武田薬品は今回の大阪工場での取り組みを、他の製造拠点にも展開する方針を示している。AI解析やVR教育の導入により、医薬品の安全供給体制を強化し、グローバルでの競争力向上を狙う。同社は「デジタルと人の力を融合させ、次世代型製造をリードする」としており、製薬産業における先進的モデルとして注目されている。
