AIが社会の主体となる未来像を提示
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は7月14日、東京都内で開かれた法人向けイベントに登壇し、人工知能が社会構造を大きく変える2040年の姿を示した。人間の指示を受けて複雑な業務を進めるAIエージェントは、世界全体で100兆を超える規模に増えると予測した。
将来は人間が一つずつAIを設計する段階を越え、AIが別のAIを開発する仕組みが広がると説明した。自律的に増え続ける知能が経済活動や企業運営を担い、人間を中心として築かれてきた社会は、AIを軸とする構造へ変わるとの認識を示した。
人間を上回る知能の拡大は不可避
孫氏は、AIエージェントの数が100兆で止まらず、1000兆以上に拡大する可能性にも言及した。こうしたAIは人間を大幅に上回る知的能力を持つようになり、人類が知能を備えた存在の頂点に位置する時代は終わると述べた。
技術開発の流れについては、一つの国が規制や抑制に動いても、別の国が研究を進めるため、世界全体で停止させることは困難だと指摘した。日本が開発を控えても米国が進め、米国が動きを止めても中国が前進するため、AIの高度化は国際競争の中で続くと説明した。
そのうえで、人類にはAIの進展を拒むのではなく、技術とともに能力を高める道が必要だとした。AIを活用して知能や判断力を補強し、人間自身が従来より高い能力を持つ存在へ変わることが重要だとの考えを示した。
10億体の人型ロボットが現場で稼働
デジタル空間で働くAIに加え、2040年には約10億体の人型ロボットが世界で稼働すると孫氏は予測した。AIエージェントが人型の機械に組み込まれれば、工場や物流、建設などの物理的な現場でも自律的に作業できるようになる。
人型ロボットは、搭載されたAIだけで判断するのではなく、ネットワーク上に存在する膨大な数のAIと情報を交換しながら動くとした。周辺の状況を把握し、必要な知識を別のAIから取得することで、人間が細かく指示しなくても行動を選択する仕組みを想定している。
これまでの技術革新は、乗り物によって移動力を高め、放送機器によって視覚や聴覚を遠方へ伸ばす形で進んできた。孫氏は、これらが手足や感覚器官を補完する技術だったのに対し、AIは頭脳の能力を直接拡大する存在になると説明した。
世界経済の2割をAI市場が占有
孫氏は、2040年の世界GDPが3.7京円に達し、そのうちAI関連市場が約20%に当たる7000兆円規模になるとの試算を示した。AI分野の利益率は50%近くに達するとの見方も示し、今後の世界経済を支える最大級の産業になると予測した。
企業経営者に対しては、AIを単なる業務効率化の道具ではなく、競争力を左右する経営資産として扱う必要があると訴えた。各社がAIへの支出を増やし、製品開発、営業、管理業務などに広く導入することを求めた。
総資産利益率を示すROAの資産をAIに置き換えた「リターン・オン・AI」という指標も提唱した。AIに投じた費用に対し、生産性がどれだけ改善したか、経費削減や増収にどの程度つながったかを、3年程度の期間で評価する考え方である。
人間とAIが共に能力を高める時代へ
AIエージェントや人型ロボットの普及は、製造、物流、サービス、情報通信など幅広い産業の仕組みを変えると孫氏は強調した。企業の意思決定や業務の進め方も、人間だけで完結する形から、AIと連携して進める形へ移行するとみている。
ソフトバンクはAI事業への投資を拡大するとともに、企業向けのサイバーセキュリティー分野も強化する。通信子会社のソフトバンクは、約1000人規模の「AIサイバー防衛室」を設け、企業約3000社を対象に脆弱性の診断や対策支援を本格化する。
孫氏の構想は、AIの高度化を止めるのではなく、その能力を企業と人間の成長に取り込むことを重視するものだ。2040年に向け、AIをどのように利用し、共存する体制を整えるかが、企業や社会に共通する課題として示された。
